私が永大産業の所長をしていたころのライバル会社で渉外活動をしていたK氏と久しぶりにお会いして、昔話に花が咲きました。
K氏は「昔は我々の会社よりも永大産業の方がビッグ企業。
デザインなども先端をいっており、それを"盗もう"とよく住宅展示場などに通って参考にしたものです」と語り、「私はスパイみたいなものでした」と言うのです。
スパイは大げさな表現で、住宅産業塾で盛んに言っている「ベンチマーキング・benchmarking」のことをK氏は語っているのです。
最善に学ぶ――それがベンチマーキングなのです。
永大産業が倒産してから後、K氏のいた会社は大きく成長し、トップ企業となりました。
その成長の裏には永大産業だけではありませんが他企業から学んだものが多くありました。
住宅の工法、デザイン、営業、組織の運営方法、そして人材までも、永大産業から取ったと思われるものも少なくはありません。
また、『知恵を出せ、知恵の出せないものは汗を出せ、知恵も汗も出せないものは静かに去れ』と名格言を残した永大産業の創業者・故深尾茂氏の精神もベンチマーキングとして伝わっているようです。
そうした他社から学び取り、自社の中で吸収していったことでK氏のいた会社はトップ企業に躍進したといってもいいのです。
最善に学ぼう、他社のいいところを吸収しようといっても、拒否反応を示す人もいます。
どういう人かといいますと、2つのタイプがあります。
1つは「他社のものを"盗む"ようなことはしたくない」という正義派タイプです。
ベンチマーキングは"盗む"のではありません。
"学ぶ"のです。
他社のいいところを学んで吸収するのです。
その学ぶ姿勢は徹底して、貪欲でなければなりません。
学校の授業のように居眠りしながら学んでいたのでは吸収できません。
それこそ、"盗む"というような心でアタックしなければならないのです。
昔の棟梁は若い弟子に「俺の技を盗め」と言って教えていきました。
それと同じで貪欲な心がなければ,いくら最善に学ぼうといっても吸収はできません。
いま1つは「他社の真似などできるか」といった自分が一番派のタイプです。
他社から学ぼうとせず、自分だけの世界で勝負しようとする人も少なくはありませんが、これでは時代に取り残され、孤立し最後は消えていってしまいます。
最善に学ぶ(ベンチマーキング)には謙虚な気持ちで、教えを請う姿勢で臨まなければなりません。
そうすれば相手も心を開いて情報を公開してくれるのです。
最善の他社から学んで吸収したとしても、そっくりそのまま、コピー版が生まれるわけではありません。
住宅であるなら、あの会社のデザインに似ているが"ちょっと違う"ということになります。
その"ちょっと違う"というところが大事なところで、独自の味わいが出ていれば、それはヒット商品にもなるでしょう。
いま成功している住宅会社はどれもこうしたベンチマーキングで学び、独自の味を出したところです。
そうではなく、その"ちょっと違う"ところの独自の味もなく、ただ物真似でそれも"下手な"というデザインであったりしたら、お客様はそれを見抜いてしまうでしょう。
最善に学ぶ(ベンチマーキング)ということは、自社の個性(らしさ)を引き出すために学んでいくのであり、個性(らしさ)を引き出す最短の道でもあるのです。
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