現在の住宅業界は、人手不足が慢性的な状態となっています。このような状況の中で“働き方改革”が叫ばれるようになってきており、残業や休日出勤の削減をはじめ、人材流出防止や採用といった面においても働く環境の整備は必須事項となってまいりました。政府も女性活躍推進を打ち出していることもあり、地域密着工務店・ビルダーにおける女性活躍の場をテーマとして掲げ、「女性活躍支援プロジェクト」を立ち上げました。

 

このプロジェクトの第1弾として、11/22(金)に、「住宅業界未経験の女性が、現場で活躍できる仕組みセミナー」を東京で開催し、まずは女性の現場への進出をテーマとして掲げました。現場における工事管理業務については、品質管理や積算・発注・原価管理、工程管理や安全管理、更にはお客様対応など多岐にわたっております。この中で、比較的専門性の高いと思われる「品質管理」を、業界未経験の女性に任せることができるのか? というテーマについて、実際に現在女性品質管理者として活躍されている4名の方に、現場でのエピソードやどんな想いで仕事をされているのかを語っていただくとともに、後半はパネルディスカッション形式で更に詳しい話をしていただきました。その内容について簡単にまとめましたのでご覧ください。

 

1. 女性品質管理者自身が語る

実際に品質管理者として業務をされている、3社4名の方にご自身の経歴や現在おこなっている仕事内容などについて話をしていただきました。前職はヤクルトレディーや歯科衛生士助手、ホテル業など様々で住宅業界については全く知らずに入社したという経歴の持ち主たちです。現場というと怖い職人さんたちがいるというイメージを持っていたようで、ひとりで現場に行くようになった時は、不安な気持ちも相当あったそうです。品質検査をしていると是正を求める必要が出てきます。ここで勇気を振り絞って職人さんにそれを伝えても「そんなはずはない」と言われることもありましたが、自分が正しかったと分かったときに迷いが吹っ切れ検査に自信が出てきたそうです。皆さんこのような経験をして自信とやりがいを感じてきたとのことでした。皆さんが共通して話されていたのが、品質管理のプロ意識をもって仕事をしないといけない、お客様に欠陥住宅を渡さないこと、そして検査では自分の家だと思い、ミスは許されないという想いで検査し、是正が必要な時はしっかりと職人さんに要求するとのことでした。

 

 

 

2.女性による品質管理システムの導入

業界未経験の女性を品質管理者として登用された(株)HORI建築の代表取締役 堀 昌彦氏に、経緯などについて話をしていただきました。現場は男性という固定概念があり、女性ではできないだろうと考えていたそうですが、まずはこれを捨ててみたとのこと。そして現場監督の仕事を①工期、②品質、③安全 ④原価、⑤労務環境を分けて、品質と安全を抜き取り単一職で考えてみれば教育も早いだろうと考え、さらにHORI建築の4本柱として、①業者との関係、②現場スタンダード、③業務フロー、④品質管理システムがあるため未経験の女性品質管理者を導入しても大丈夫だろうとの確信があったそうです。このような背景と仕事の流れを整理してみることで、会社がやるべきことも明確になり、仕組みをつくって今の形になってきました。失敗もありますがそれを通じて皆が成長できる会社になることを目指しているとのことでした。

 

3.パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、テーマ毎に質問形式で事例や体験談を詳しくお話いただき、会場からの質問にも答えていただきました。

 女性品質管理者の方々が最初に現場行ったときは、わからないことを誰に聞いたらいいかがわからなかった、是正が見つかった時にどう伝えたらいいか、といった不安があったようです。特に業界を知らないということもあり特に建築知識が不十分で、まずは自分でネットなどで調べてから、プロである大工さんや上司に聞きながら少しずつ勉強していったとのことでした。

大工さんや業者さんとの関係で嫌だと思うこともあったようですが、飲み物を持っていくと喜ばれたり、一言二言声をかける、職人さんの特徴をつかんで会話するといった工夫を重ねながらコミュニケーションを深めていきました。これまでは男性社会の現場でしたが、女性が現場に行くことで現場が明るくなる、職人さんも優しくなる、といった効果もあるようです。

ご自身のやりがいといった面では、自分で検査して建った家が増えていることがとてもやりがい感じる、未来塾(業者会)で業者さんと話す機会がありコミュニケーションができる、品質管理は当たり前であり自分の仕事が、業者や会社を助けているという実感にやりがい感じるといった前向きなお話もありました。

品質検査もいろいろな種類がありますが、同じ検査を3回くらいするとわかるようになるようです。そして半年くらいすると完全にひとりで廻るようになります。

この仕事に向いているのは、自分の仕事に誇りを持てる、相手に自信をもってはっきり物事を言える人、気持ちが前向きな人、責任感のある人、という意見でした。

また、この仕組みを動かすには業者さんの協力が必要です。業者の協力があっての家づくりであり、皆の協力があって品質管理もできるということを理解しあえることがとても重要であるそうです。

実際に女性品質管理者として仕事をされている方々が、どんなことを考えているのかがよくわかりました。

 

4.総括

住宅業界は凝り固まった業界で、進化しておらず旧態依然ということができます。これからは「変える」ことが必要です。これまで男性中心の業界であり、男性でなければできないと考えられてきましたが、まずはこの偏見を捨ててみてください。実は女性の方が信頼できる面が多々あります。

品質管理は○か×しかありません。ベテランは△をつけたくなるが、これをきちんとやってくれるという点では女性の方が向いているかもしれません。工事監督を育てようとすると、いろいろなことを全てやらせるから難しいのです。品質管理という単一職として考えてみてください。それだけを教育していけば、意外と早くできるようになります。しかしそれには仕組みをしっかりつくることが必要です。標準化・品質基準を明確にすることです。これが出来れば、品質管理は難しくありません。また、業者が協力しないとダメです。業者も含めた一体感をつくること、そして何が正しいかを明確にして確実に実行できるようにすることが重要です。

 

人材活用は、その人の能力を発揮してもらえばいいのであり、時間の制約などはいらない時代です。新しい仕事のやり方を是非考えてみて下さい。

 

住宅産業塾 塾長 長井 克之

 


 

現場の職人さんとの関係や住宅建築のことを知らないところからスタートしたため、苦労された点も多々あったようでしたが、それらを乗り越えられたエピソードなどは、参加された方々もとても興味深く聞いておりました。2020年は、現場で実際の品質管理の様子を視るベンチマーキング視察会を開催する予定です。お楽しみに!

 




プロジェクトについてのお問い合わせは

▼こちら▼

メモ: * は入力必須項目です