住まいの近代化:1868年明治維新以降
はじめに
日本国民の暮らしの近代化の始まりと終焉
近代の定義は、日本の場合、一般的には明治維新を起源とする。日本が250年もの間、鎖国をしていて近代化が進んだ西欧に目を覚まされ、尊王攘夷から一気の開国に転換した。そして、遅ればせながら近代化に移行した。
政治的な観点でとらえれば、江戸幕府から新政府に政権が移行した時で、国造りのスローガンを「殖産興業・富国強兵」と大きく国民に示した。それまで、外国に攻め込まれたことがないため庶民には国という意識は弱く、政治はお公家さんと武士階層の中の問題で、下々は日々の暮らしの不平を言うくらいだった。そうしたところに、社会の下の階層にも、政治参加の可能性が見えてきたことは大きな進歩だった。
明治維新後、中央集権国家形成のため、旧来の士農工商(四民)の封建的身分制度が廃止されて「四民平等」となった。
1870明治3年、農民や町人が姓(苗字)を名のることを許された。さらに、公卿と諸藩藩主を「華族」、武士を「士族」、農工商三民を「平民」という呼称に改めた。居住・職業の自由、華・士族、平民間の結婚の自由等が認められ、原則として、国民はすべて平等に扱われることになった。
しかしこの四民平等の措置は、現実には国民の間の身分差別を解消できず、近代社会は「上流」・「中流」・「下流」の新たな階級を生み出した。
「上流階級」の人々は皇族、藩主の華族と財閥(資本家)、少数のお雇い外人たちであった。
その大きな違いは経済力と権力であり、当時の社会では中流階級との間に桁違いの格差があった。
明治初期から後期にかけての主役であった。
「中流階級」は、かつては地主や自営業者たちで「中産階級」とも呼ばれた。
そこに、新たな中産階級としてサラリーマンが加わってきた。明治維新で多くの士族は仕える城主を失って、自分の持てる能力によって新たな職業である役人、教師となった。
一部の人たちは、新天地の北海道を開拓して農業を興し、または外人相手の商売を始めた。
さらに、一部の武士はかくれた能力を発揮して職人や芸術家、芸人となった。こうした中流階級の人々が豊かになり変化するのは、明治後半から大正・昭和初期にかけてのことであった。
「下流階級」を構成する平民は、土地を持たない小作農・独立前の職人・商家の奉公人達だった。
この階級に、殖産興業の工業化で生まれた大量の工場労働者が加わってきた。
この階級の暮らしは、第2次世界大戦後まであまり変わらなかった。
特に農山漁村は、昭和30年代の高度成長が波に乗って中流感覚が拡散するまで生活変化が起きなかった。
明治維新によって、日本人の日常的な暮らしの最大の変化は「洋風化」であった。
先進的と評価した西欧の暮らし方が、日常のくらしの中にどのように浸透してきたかを視点として考えると、新たな歴史の区切りが見えてくる。
そこで、社会階層の変化を「洋風化」という観点でみて、暮らしと住宅・建築の歴史をとらえてみようと思う。
明治維新を近代のスタート点とするのは問題ないのであるが、近代化が終了して次の「現代」という区切りをどこにするのかが問題である。
住宅・建築は、人々の暮らしや行動と一体であり、衣・食・住・遊の生活変化と切り離すことはできない。
したがって、日本国民全体の暮らしがどのように変化したかを改めて考えて、新たな時代の区切りを考え直してみたい。
はじめに
目次
1:暮らしの近代化の通史
2:居留地の洋風建築
3:お雇い外国人による西洋建築
4:日本職人による儗洋風建築
5:北海道開拓のアメリカ建築
作成中
6:日本人建築家による西洋様式建築
7:外国人建築家の活躍と影響:和洋並立邸宅
8:日本人建築家による近代建築:和洋折衷文化住宅
9:戦後の最小限住宅と農家の台所改善:モダンリビング
10:近代から現代への課題
附:年表
現代の住まい:1966年以降
附:年表 幕末から明治-大正-昭和40年 |
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年次 |
建築物 |
出来事 |
1858 安政5年 |
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和親条約締結 長崎港本格開放 |
1859 安政6年 |
横浜港開港 函館港開港 |
約50人の外国人が居住
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1860 万延元年 |
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万延元年遣米使節 |
1861 文久元年 |
長崎製鉄所・ハルデス |
遣欧使節団 61-65:米南北戦争 |
1862 文久2年 |
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「ジャパンパンチ」発行 |
1863 文久3年 |
グラバー邸 |
横浜に170人の外国人 長州5傑イギリス密航 |
1864 元治元年 |
大浦天主堂 オルト邸 五稜郭 |
遣欧使節を派遣 ウォートルス:来日~73離日 ブリジェンス:来日~91没 新島襄アメリカ密航 |
1865 慶応元年 |
薩摩藩集成館・シリングフォート 横浜フランス海軍病院・清水喜助 |
バスチャン来日~83離日 薩摩藩遣英使節 薩摩イギリス留学生 |
1866 慶応2年 |
イギリス仮領事館・ブリジェンス |
海外渡航禁止解除 幕府イギリス留学生 横浜豚屋火事 |
1867 慶応3年 |
薩摩藩鹿児島紡績所・シリングフォート リンガー邸 |
徳川昭武パリ万国博出席 |
1868 明治元年 |
川口居留地開設26区画競売 神戸港開港/新潟港開港 築地ホテル・清水喜助 |
箱館戦争 川口居留地開設 ブラントン来日~76離日 |
1869 明治2年 |
横浜イギリス領事官・ブリジェンス 築地居留地開設 新潟運上所 琢美学校・山梨・ 柳池学校・京都 |
北海道開拓使
東京-横浜間に電信開通 |
1870 明治3年 |
樫野崎灯台・ブラントン |
工部省設置 横浜毎日新聞創刊 モレル来日(4月) レスカス来日~89離日 フランス-スペイン戦争 |
1871 明治4年 |
新橋・横浜駅・ブリジェンス 富岡製糸所・バスチャン 大阪造幣寮+泉布観・ウォートルス 竹橋陣営・ウォートルス ジェーンズ邸・熊本 旧家辺時計店・京都 |
米欧派遣特命使節団出発 津田梅子5人渡米
モレル客死(11月)30歳 |
1872 明治5年 |
新橋-横浜鉄道開通 第1国立銀行・清水喜助 大蔵省・林忠恕 生野鉱山ムーセ旧宅・レスカス 北海道開拓使庁舎・? |
東京大火 三島通庸東京参事 太陽暦採用 ダイアー来日~83 アンダーソン来日~85没 ボアンヴィル来日~81離日 |
1873 明治6年 |
横浜税関・ブリジェンス 銀座レンガ街・ウォートルス 内務省・林忠恕 神戸東税関役所・林忠恕 旧菅島灯台付属官舎・ブラントン |
工学寮開校
ウォートルス帰国 |
1874 明治7年 |
駿河三井組・清水喜助 駅逓寮・林忠恕 開智学校・松本 横浜町会所・ブリジェンス 工部寮生徒館・アンダーソン |
三島通庸酒田県令赴任 ケプロン来日 |
1875 明治8年 |
中込学校・佐久・市川代治郎 睦沢学校・甲府・松本暉殷 開智学校・松本・立石清重 |
新島襄同志社英学校創立 樺太・千島交換条約 |
1876 明治9年 |
舂米学校・山梨・-- 朝暘学校・鶴岡・-- 紙幣寮製造所・ウォートルス+ボアンヴィル |
三島通庸山形県令 札幌農学校開校 長崎居留地返還 クラーク来日 カペレッティ来日~85離日 ホイラー来日 ブラントン帰国8年滞在 |
1877 明治10年 |
工部大学校本館・ボアンヴィル 大審院:林忠恕 西郷従道邸・レスカス 渋谷栄一邸・清水喜助 |
工部大学校 西南戦争 コンドル来日~ 工学寮が工部大学校 |
1878 明治11年 |
札幌時計台・ホイラー 陸軍士官学校本館・ゲリノー 旧西村山郡役所 |
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明治12年 |
済生館・山形・筒井明俊・原田裕之 |
日本人建築家 第1期生卒業辰野金吾等 |
1880 明治13年 |
札幌豊平館・安達喜幸 旧西郷従道邸・レスカス 神戸15番館・-- 教育博物館書庫・林忠恕 岩科学校・静岡・高木久五郎・菊池丑太郎 |
官営工場の払下始まる ガーディナー来日 |
1881 明治14年 |
西田川郡役所・山形 |
清水喜助逝去享年66歳 ボアンヴィル離日 |
明治15年 |
遊就館・カペレッティ 上野帝室博物館・コンドル 開拓使物産売捌き所・コンドル |
三島通庸福島県令 |
明治16年 |
鹿鳴館・コンドル 伊達郡役所・ |
三島通庸栃木県令兼務 |
明治17年 |
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三島通庸警視総監 |
1885 明治18年 |
南会津郡役所・福島・ |
アンダーソン横浜で没享年53歳 カペレッティ離日9年滞在 |
1886 明治19年 |
同志社礼拝堂・グリーン 旧西村山郡議事堂・山形 |
帝国大学工科大学 小学、中学、師範学校令 日本技術団ドイツ留学 エンデ&ベックマン来日 |
1887 明治20年 |
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コンドル雇止め ベックマン来日 |
1888 明治21年 |
官庁集中計画案・エンデ&ベックマン |
エンデ帰国 バスチャン横浜で没享年49歳 |
1889 明治22年 |
ハンター邸・神戸・-- |
大日本帝国憲法発布 東海道本線全通 |
1890 明治23年 |
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第1回帝国議会招集 教育勅語 東京-横浜電話開通 |
1891 明治24年 |
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ブリジェンス横浜で没享年72歳 |
1893 明治26年 |
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林忠恕没・享年58歳 |
1894 明治27年 |
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日清戦争 |
1895 明治28年 |
司法省・エンデ&ベックマン+河合浩蔵 |
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1897 明治30年 |
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八幡製鉄所設立 日本郵船欧州定期航路 |
1898年 明治31年 |
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日本美術院創立 |
1900 明治33年 |
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治安維持法公布 |
1901 明治34年 |
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八幡製鉄所操業開始 |
1902 明治35年 |
ハッサム邸・神戸・ハンセル |
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1904 明治37年 |
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日露戦争 |
1905 明治38年 |
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日英攻守同盟 |
1906 明治39年 |
旧弘前市立図書館・堀江佐吉 |
日本国有鉄道法 |
1910 明治43年 |
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朝鮮総督府設置 |
1914 大正3年 |
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第1次世界大戦参戦 |